気の遠くなるような昔…
水宙の外から、漆黒の無機物、モノリスが投げ込まれた。
大いなる世界の意志のもと、星の子らは試される。
モノリスを介して声が語りかける……
「さあ、わたしを満足させて魅せろ。」
はじめに天啓を受けた。来たれ、さすれば道が拓けると。
流動する水の宇宙の中で、非力な星の子が生き延びるのは簡単なことじゃなかった。でもそれを、魔法で他の追随を凌ぐ竜の姿に変えてくれると言うんだよ。
嘘かと思ったね。呼ばれた先の密林で僕以外に天啓を受けたアステルを見るまでは。
僕らの「在り方」を粉微塵に砕いて、「次の形」に固めることで竜に成る。
恐ろしさのあまり僕は逃げ出した。途中で逃げたものだから、固まる前の液状の身体になってしまった。
彼女はも少し長く触れていたから、より竜に近い姿になったのかも知れない。
あのとき何故手を放したのだろう。
次があるなどと何故思ったのだろう。
もう何の呼び声も聞こえない。竜になり飛び去った同胞の姿も見えない。
連れて行け。私を、その場所へ。
水宙のとある密林の果てには、各辺が1:4:9の比をとる漆黒の四角柱:モノリスがそびえている。
当時を知る者は、エマが置いたのだろうと話している。
我々が最早知覚することのできない遥か昔から存在しているその無機物は、もう動くことはない。
「選び終わった」から。