ファンタズマの話を真面目にしたがるやつなんて、間違いなく僕しか居ないだろう。
なぜなら幻影たちはアステルや水の宇宙に向けたそれぞれの『意志』を通すことに躍起になっていて、他の誰かにそれを伝えることになんか注力できないからだ。
幻影とは…数多の意志のかたまり。
或いは特別な、無二の意志。
つまり複数の意志の集合からなるものと、単一の意志からなるものがある。
複数の意志の幻影は靄のようだけれど、単一の意志の幻影ははっきりとした輪郭を持っている。
僕は自分の姿が側からどう映るのかは知らないけれど、きっとはっきりとした輪郭なのだろうね。
何故なら僕は、無二の意志を持っているからだ。
そして幻影は、個体ごとに異なる意志を持つ。
たとえば僕は、こうやって…情報を書き留める意志。
彼は星に名前を付け、写しの蝋人形を作る意志。
僕と彼とでは、アステルや水の宇宙に対してやりたいことが違うんだ。
なに?仕組み?
そんなの僕にだって分からないさ。
僕自身も窓の外に映った情報を書き留めているだけの、しがない幻影だから。
そう、今まさにやっているところなんだけど、窓から視てるんだ。宇宙のあり方が変わりゆくさまをね。
この世界の仕組みは誰にも分からない。けれど視ることはできる。
僕はそれを書き留めて、アーカイブを作成しておきたいと思った幻影なんだよ。
僕以外の誰かが読んで水の宇宙を知覚して初めて、僕の意志は果たされる。
なにしろ、伝道師なのでね。
(伝道師のファンタズマ)
ああ、そうだ。幻影を見つけたら、ここに書いておこうね。
資料がなかったら…それは僕の責任。