我々が日々観測を続けている水の宇宙(以下:水宙/aquaverse)は、あるとき無から有が生じ、有から器が生じ、器に水が注がれて出来たというのがこんにちの通説である。
その器を世界の意志であるエマ(ema)がかき混ぜて遊んでいたところ、泡から最初の星が生まれた。星の名はミロクといった。
ミロクは話し相手欲しさにいくつかの泡のもとを蒔いたのだろう。その泡がいつしか沢山の星々になり、今我々の目の前に現れて、面白おかしく、時に冷ややかに世界の真実を告げている。
我々は水宙に輝く星々:奇怪な二足歩行動物を、水宙星物(すいちゅうせいぶつ:アステル/aster)と呼称することにした。
アステルは大きく分けて2グループに大別される。
アステル:二足歩行能力を有する
レヴィア:二足歩行能力を有する竜人※
※現生するレヴィアは2人のみ。
話したがりのレヴィアに依れば、彼らの用いる「魔法(ほんとうの魔法)」とは「竜に変身すること」のようだ。
魔法によって竜へと姿を変えれば、水宙の外に出ることができる。
しかし魔術には「使用しすぎると竜の姿から元に戻れなくなる」という副作用があり、これによってかつて竜となり二度と水宙に戻らなくなった者も居たようだ。
竜人は魔法を用いることができる状態でありながら水宙に留まっている、アステルと竜の中間ともとれる奇妙な存在だ。かつて水宙の外に焦がれ、久遠の時が流れた今なお竜の飛び立つ様を忘れられぬ、嫉妬の化身である。
いつか透明な建物の最上階に住むアステルを訪れた時、「仕事以外の用事で話しかけてくるなんて奇特な幻影もいるんだな」と弱々しく笑いかけられたことがある。
我々は彼らから「幻影(ファンタズマ/phantasma)」と呼ばれているようだ。二足歩行の生き物からすれば、足のない私は幻影と呼ばれてもおかしくないのかもしれない。私からすれば、二足歩行の生物のほうが奇特である。なぜ歩行することに拘るのか。